妊婦の便秘
便秘は一般的に女性に多いとされ、さらに妊娠すると便秘になりやすいとされています。
妊娠することによって増大した妊娠子宮による腸管の圧迫、非妊娠時と比較して明らかに高値な黄体ホルモンなどの影響による腸管の蠕動運動の低下などが便秘の原因とされています。
治療法としては非妊娠時と同様であるが、生活習慣の改善(食事指導、運動、排便リズムの確率など)、薬物療法などが必要になってきます。
『便秘の定義』
便秘とは排便回数、一回排便量が減少し、糞便内の水分量が減少しその硬度が硬化し、硬便排泄が困難となる場合をいいます。
しかし、排便間隔の時間的基準はありません。
「三日間、排便がない」、「四日間、排便がない」という時間的問題ではなく、上記のような排便状態が認められることをいいます。
しかし、このように長期間にわたって排便が無い場合には便秘のことがほとんどです。
逆に、たとえ毎日排便があっても、少量の硬便が排便困難後にわずかに排泄されるのみであったならば便秘といえます。
このような便秘がみられると、便の排泄は困難をきたし、一般的には排便時の不快な随伴症状(腹痛、腹部膨満感、残便感など)を伴い、生活に支障をきたすこともあります。
『女性の便秘』
統計的にも女性の排便回数は男性と比べて明らかに少なく、便秘は一般的に女性に多いとされています。
その理由として以下のようなことがあげられます。
①腹筋が弱く、排便時に十分な腹圧がかからない。
②羞恥心のために便意を我慢し、排便機会を逸することが多い。
③女性に限ったわけではないが、欧米化したライフスタイルすなわち運動不足と植物繊維摂取量の低下などの生活習慣。
④排卵後の黄体期(分泌期)になると黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌が亢進されます。
このプロゲステロンには大腸平滑筋を弛緩させ、腸管運動を抑制する作用があるために便秘が生じやすくなります。
月経の開始とともにプロゲステロンの分泌は低下し、腸管の蠕動運動が回復するために便秘が改善されます。
『妊娠中の便秘の原因』
便秘の原因として上記の①②③は妊娠中であっても便秘の原因になります。
さらに妊娠によって便秘になりやすいとされます。
妊娠特有の便秘の原因として考えられるのは以下のようなことがあげられます。
1 妊娠初期につわり、妊娠悪阻のために食事の摂取量が減少し、排便量が減少し、排便リズムが崩れるために便秘になる。
2 妊娠することによって黄体ホルモン(プロゲステロン)の分泌は亢進します。その結果、黄体ホルモンによる腸管の平滑筋弛緩作用、蠕動運動抑制作用によって腸管の運動は不良になり、便秘になりやすくなります。
3 妊娠6ヶ月以降になると、妊娠子宮は増大し、腸管が直接圧迫されるために便秘が生じやすくなります。
4 妊娠子宮が増大することによって、腹壁が伸展されるために腹筋も伸展され、排便時に腹圧がさらにかけにくくなるために便秘になりやすくなります。
5 妊娠中には子宮が増大し、その結果、静脈還流が障害されるために痔が発生したり、悪化したりします。
痔が悪化することによって排便時痛が激しくなるために、排便行為を我慢することによって便秘になりやすくなります。
『便秘の治療 』
妊娠中であってもなくても、便秘に対する対策は同じです。
できるだけ薬剤に頼らずに、生活習慣の改善すなわち排便リズムの改善、運動、食事療法などが大切になります。
1、排便リズムの確立
規則正しい生活をおくることが重要で、便意がなくても毎日一定の時間にトイレに行く習慣をつけることが大切です。
特に朝食後の最も排便しやすい時にトイレに行く習慣をつけることが大切です。つわりの期間にこの習慣がなくなり、以後便秘になってしまう場合もあります。
2、食事療法
線維の多い植物性食品は大腸を物理的に刺激できるために、便秘対策には有効です。
このような食品としては豆類、葉菜類、根菜類、きのこ類、海草類などです。具体的にはごぼう、れんこん、たけのこ、サツマイモ、ふき、セロリ、きゅうり、しいたけ、こんにゃくなどです。魚類では、たこ、いか、貝類なども有効とされています。
食事療法とは言えないが、起床直後の早朝空腹時に、冷たい水、冷たい果汁、冷たい牛乳を飲むことも、便秘対策として有効であることが知られています。
これは胃の中にこのような冷たい飲料が入ると胃大腸反射が起こり、反射的に横行結腸以下の大腸の蠕動運動が亢進し排便が促進されます。
3、適度な運動
適度な運動は便秘に有効であるだけでなく、妊娠経過全般に好ましい影響を及ぼします。
散歩や妊婦体操(妊婦水泳、マタニティービクスなど)は便秘対策としても有効です。
4、痔疾対策
痔による疼痛のために、排便を我慢しやすく、排便習慣が崩れる可能性があります。
その結果として便秘の原因になり得るために痔疾対策が重要です。
『便秘の薬物療法』
下剤にはその薬理作用が強く、比較的短時間後(2~6時間後)に効果が発揮される峻下剤と緩やかに作用し8~12時間後に効果のある緩下剤があります。
峻下剤(ひまし油、大黄末)は子宮収縮をきたし流産、早産の原因になり得るので、妊娠中は避けるべきです。
妊娠中使用可能な緩下剤
センナエキス(アジャストA、ヨーデルS)、センノシド(プルセニド、センノサイドなど多数)、ピコスルファートナトリウム(ラキソベロンなど多数)、配合剤(アローゼン、ソルベンSなど)などは妊娠中であっても使用可能です。
またレシカルボン座薬、テレミンソフトなどの座薬も使用可能です。
タグ
2004年12月26日 | コメント/トラックバック(0) |
カテゴリー:妊娠中の病気